ネタバレ注意。
…とは言ってもトリックには全く何の影響もございません、≪メフィスト 2007年05月号≫掲載、≪クロアチア人の手≫の斜め読み感想文です。
かなり入手に時間がかかってしまったのでもう興味深いシーンに関しては他のサイトの管理人様達がブログ等に書かれていますが、私からも二~三気になるシーンを挙げさせていただきましょうか。
さて。
今回の舞台は2006年02月の日本。石岡君がいつものように謎解きを依頼しようと御手洗さんに電話をした時の会話がこれでした。
「石岡君、ぼくは今仕事がうまくいっていない。すべてをうまく転がすには時間がかかるし人手もいる。今そんなささいな謎々に関わっている時間はないんだよ」
電話の向こうの御手洗の声は、いつにも増して冷たく、相当いらついているふうだった。
「だが御手洗、君の頭脳が要るんだ。東京の警視庁は君の頭を必要としている」
「その頭を貸せないんだ。ぼくの頭は、今こっちの問題でぎっしりいっぱいなんだよ。こっちの連中こそぼくのそれを必要としている。もっとも連中自身、どのくらいそれを解っているかは疑問だが」
「頭が貸せないって?」
「ああ、手足なら貸せる。だが日本は海の彼方だ。君がやってくれないか」
≪クロアチア人の手≫より
石岡君曰くこの時懸命になって掴まえた御手洗さんはいつになく機嫌が悪かったそうです。
しかしそれでも彼はこの後凡そ六頁分もの時間を石岡君との会話に使ってくれた。問題は、次のシーンです。
「さあもういいだろう? ぼくは忙しい。後は君が自分でやるんだ」
「あの、もうちょっと……」
「駄目だ」
「図を送るから……」
「送るのは君の自由だ」
「送っても、見てくれないってのか」
「それはぼくの自由だ。でももうできたろう? 残りはわずかだ、頑張ってくれたまえ。ではさようなら」
電話は切れた。
≪クロアチア人の手≫より
けれどこの後、石岡君が御手洗さんに再度電話をした時に彼はまた忙しいと言いつつも“謎は解けた”のだと言い切りました。
ということはつまり――
見てくれたはずなんですよ、彼は。石岡君が強引に送った図面を。
本当に忙しかったはずなのに。
それはやっぱり“謎が解きたかったから”だとか“暇だったから”ということでは決してなく、ただ石岡君のことが心配だったからだと思うんですね。
なのに今回の最後にあった石岡君のモノローグがこれです。
いったい私が何をしたというのか。それは夜うち朝がけで、忙しい彼を追い廻し、迷惑をかけた。それは認めるが、しかしその報復がこれだというのか。三十年来の友に、この仕打ちか。
・・・・・・
これで御手洗とはもう終わりかもしれないなと、ぼんやり考えた。
もう電話はすまいと思う。今回の御手洗は、ひどく冷たかった。うるさそうで、その様子は決して冗談ではなかった。私は、自分が友に邪険にされていると感じた。私程度の人間は、高度に知的な活動の邪魔だから、もう二度と電話はしてくるなという意味で、彼はこんな手ひどい仕打ちを私にした。
≪クロアチア人の手≫より
――ここで“本当だよな、もうこれで終わりなんじゃないのこのコンビ”と思うのが一般読者、“そんなわけないだろう、お前は彼氏に構って貰えないと拗ねてすぐ泣く彼女かい”と嘲笑するのが御石愛好家。
……ってことはもうこれで終わりだと思い込んでいる石岡君は一般読者寄りで、そんなわけないだろうと思っているであろう御手洗さんは御石愛好家寄りだということか(笑)。まぁそんなことはどうでもいいが。
って言うか石岡君……(勿論向こうの時間で)平日の朝08:00に電話をしたらそりゃ「ああ石岡君駄目だ。ぼくはもう出かけなきゃ!」って言うよ。だって大学に行って講義しなきゃなんないんだから。
石岡君自身が死に目に遭っているのに見捨てていったというなら話は違う。でもこれはそういうケースじゃないでしょ?
大体御手洗さんはこの二度目の電話の時も朝08:00という時間にも関わらず凡そ四頁分もお話してくれたんですよ? 電話切る時も「ではまただ!」って言って切ったんですよ? それをアンタは“御手洗とはもう終わりかもしれない”などと……それを言うなら事件の解決依頼の時にばかり電話をかけてくる石岡君のことこそ御手洗さんは冷たいなと感じているかも知れないじゃない。
いやいや、“そんなに邪険にされたくなきゃ始めから僕に付いてくりゃ良かったじゃないか!”というのが潔の本音か。
朝08:00頃にキヨシのアパートにいた男の存在はさて置き(どうせ仕事関係者だろうし)。って言うか今はその程度のこと心底どうでもいいし(笑)。
ここで私が注目すべきだと考える最大ポイントは、これが
2006年02月の事件であるということです。この時の御手洗さんが石岡君に対して“高度に知的な活動の邪魔だから、もう二度と電話はしてくるな”などと思っていないことは
2006年秋頃の潔の近況報告 を見れば分かります。
未だに“愛情がある”とか“全て石岡君次第”だなんて思っている御手洗さんが二人の仲が終わりになることを望んでいるわけないじゃないですか(……まぁ和己はある意味では非常に研究の邪魔だろうが:苦笑)。
何かあれですね、これはもう石岡君の性格の問題であるとしか言いようがないと思う。
この人きっと毎日のように“大切だ特別だ愛してる好きだよ”って言われ続けなきゃ相手を(自分を)信じられないタイプなんだよ。
……でもそこまで思い切ったことを言おうと思ったら潔にも物凄い覚悟がいるからなぁー。しかも五十八歳にもなって今更失敗も出来ないし(石岡君の怖いところはこれだけ御手洗御手洗言っててもいざとなると相手の真剣な告白をもあっさり笑い飛ばしてしまいそうなところだ)。
当事者にとっては難しい問題だよねー。(石岡君じゃないけど)それこそ三十年間も引き摺ってきてる想いなんだからさ。
しかしここまで二人の関係を壊滅的な方向へ向かわせてしまったら――そして読者の望む形を目指そうと考えてくれているのなら――後はもう上がるしかないようにも思うんですが。吉敷さんのところも最後の最後までぐっちゃぐちゃに揉めてたわけだし。
ある意味どう収拾を付けるのかが見物かも。あくまで巧くいけばの話だけどね(苦笑)。
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